昨年12月11日、セレーナ・ゴメスは約4億人のフォロワーに向けて、ある写真をインスタグラムで公開した。写っていたのは、左手の薬指に輝くひとつの指輪。それはただの指輪ではなく、婚約者のベニー・ブランコから贈られた、6カラットのマーキスダイヤモンドが目を引くパヴェバンドのエンゲージメントリングだった。
「永遠の始まり」という言葉が添えられた写真には、現在2,300万件以上の「いいね!」がついている。そして投稿から1週間後、グーグルは「マーキス エンゲージメントリング」の検索数が史上最高を記録し、長らくカップルに最も人気のあった「ラウンドカット」の検索数を初めて上回ったと報告。昔からニーズのあるマーキスカットダイヤモンドのリングが、堂々とトレンド入りしたのだ。そして何人かのジュエリーのプロに聞いたところ、息が長いトレンドになる可能性が高いという。「有名なセレブが婚約すると、必ず(リングにあしらわれた)ダイヤモンドのカットに関心が集まります」と言うのは、ソフィア・リッチーのウエディングリングをデザインしたマーティン・カッツ。エミリー・ラタコウスキーの“離婚指輪”を手がけたアリソン・ルーも彼に同意する。「今後数カ月の間に、関心が高まることは間違いないです」
一方で、ゴメスのエンゲージメントリングは決して新たな流行を生んだわけではなく、すでに浮上しつつあったトレンドに拍車をかけたにすぎないと言う人もいる。「セレーナが婚約する以前から、マーキスカットダイヤモンドには注目が集まっていました。全体的に見て、(人気が)復活しつつあるカットだと思います」とジュエリーデザイナーのステファニー・ゴットリブは言う。(実際に、ゴメスは以前からこのタイプのダイヤモンドに目をつけていたようだ。2015年に発表した楽曲『Good for You』では、「私はマーキスダイヤモンド あのティファニーも嫉妬するほどの」という歌詞が登場する)。
ではなぜ今、そのリバイバルを果たしているのか。ゴットリブもカッツも、より個性的なシェイプのカットを好む花嫁が増えたからだと考える。最近はアルゴリズムによって、SNSでは似たような投稿ばかりが目につき、婚約指輪のインスピレーションを探そうと思っても、同じようなデザインのものしか表示されない。そのためか、多くの人がよりユニークでファッション性の高いリングを好むようになり、カッツが思うにマーキスカットのダイヤモンドリングは、そんな個性派の花嫁にとって打ってつけなのだ。
ノスタルジックでいてタイムレス。個性派も虜にする表情豊かなカット
マーキスカットの特徴は、その独特でフェミニンな形にある。「細長い楕円形で、両端が尖っているため、ラウンドやプリンセスのような伝統的なカットよりも存在感があります。その特有なシルエットは、ほかとは違うものを求めている人を惹きつけます」とゴットリブは語る。
また、目の錯覚を利用して、ダイヤモンドのサイズを大きく見せることができるカットでもある。「マーキースカットは美しいだけでなく表面積が大きため、ダイヤモンドを実際のカラット数よりも大きく見せられます」と言うルー。「オーバルは王道すぎるから、目新しいデザインにしたい。そう思っている人にとって、マーキスは魅力的なカットです。縦向きと横向き、どちらを選んでもセッティングのオプションは豊富ですし」
話題が急上昇しているマーキスカットだが、今まで完璧にトレンドアウトしていたわけではない。そしてその歴史も豊かで華やかだ。「(マーキスは)18世紀にルイ15世の依頼で作られ、19世紀から20世紀にかけてジュエリーに使われてきたシェイプです」と、ニューヨークのアンティーク宝飾商、ジェームズ・ロビンソンでアンティーク・ジュエリーを専門に扱うジュエラーのジョーン・ボーニングは語る。人気のピークは1960年代から70年代。ジャッキー・ケネディがギリシャの大富豪、アリストテレス・オナシスから「レソトIII」として知られる40カラットの巨大なマーキスカットのダイヤモンドリングを受け取ったのもこの頃だ。(リングは後にオークションにかけられ、260万ドルで落札された)。こういったレトロなエピソードも、マーキスカットの人気復活の一因であると思われる。「皆、カットが持つノスタルジックでタイムレスな魅力に惹かれるのです。モダンとアンティークをミックスしたような面白さがあります」と語ったゴットリブは、さらにマーキスカットを選ぶ際に覚えておくべきポイントを教えてくれた。
理想的なマーキスカットダイヤモンドの4箇条
1. バランスのとれたプロポーション
マーキスカットは形がすべて。プロポーションが何より大事だ。理想的な縦横比は通常1.75~2.25で、バランスがよく、対称性が高いものと見栄えする。逆に比率が極端すぎると美しさが損なわれてしまう。
2. 最小限の“ボウタイ効果”
マーキースカットのダイヤモンドを選ぶ際に気をつけたいことのひとつに、“ボウタイ効果”がある。ボウタイ効果とは石の中央に現れる、蝶ネクタイのような形をした影や暗色部分のこと。ダイヤモンドの形やファセットから反射した光によって起きる現象で、どのダイヤモンドにもある程度現れるものだ。あえてボウタイ効果を出す場合もあるが、あまりに顕著なものはダイヤモンドの輝きを損なう可能性がある。ボウタイがわかりにくい石を探すためにも、エンゲージメントリングはなるべく自分の目で見て選ぶこと。
3. ダイヤモンドの先端を保護するセッティング
先端が尖っているマーキースカットは、ほかのシェイプよりも欠けやすく、ダメージを受けやすい。セッティングを選ぶ際には、鋭点を保護してくれるプロングかベゼルセッティングがおすすめ。時間が経ってもダイヤモンドを美しく保つことができる。
4. 好みに合ったクラリティとカラーグレード
マーキースカットはファセットが多いため、インクルージョン(内包物とも呼ばれる、宝石内部に取り込まれている不純物成分など)が目立ちやすいが、高いクラリティグレード(透明度)のダイヤモンドを選べば、内包物は少なくなる。また、マーキスはほかのカットよりもダイヤモンドの黄色味を隠してくれるため、カラーグレードが低い石でも、見栄えは損なわれないという。
Text: Elise Taylor Adaptation: Anzu Kawano
From VOGUE.COM
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